口八丁手八丁


ここはアシカ号の甲板の上。
二人の男女がさっきまで行っていた、ある事を賭けての決闘紛いな勝負の結果、 シゲンが勝ち、ジュリアがぼろ負け。
しかし何だか仲良く抱き合ったままという訳の判らない展開から始まる……。



「……で、お前は俺が勝ったら 『何でも言う事を聞いてやる』って言ったよな?」
「…えっ?」

まだ腕の中に閉じ込められてる状態で、ふとそんな事を彼が言い出だした。
自分で最初に言った事だったが、言われるまですっかり忘れてた。
そっか、確かに最初にそう言ったっけか。

元はといえば、シゲンがちゃんとハッキリ言ってくれないのが原因で。
自分だけが好き好き言ってるのがどうもバカみたく思えてきて。
お互いに…掛け替えのない程大事で、大切な存在だという事はわかるけど。
ちょっとね…自信がなくなってたの。
やっぱり「打てば響く」方が良いに決まってるでしょう?
やっぱり好きな人からの「言葉」は大事だから。
私はそう思うから。

女の子は想いが通じるまでは、相手に対してすごく臆病なのだけど、 一瞬でも期待するような事があれば、その先の答えを聞きたくて、とてもとても現金になる。
だから『勝負』という名目に託けて言わせてみようと思った。
無理矢理でも。
その口から「好きだ。愛してる」って聞いてみたかったから。
そうする事でちょっとでも優位に立ちたかったの。
だって、兄さんは何時でも余裕綽綽でスッキリとすました顔してるんだから。
きっとあなたは判ってない。
その態度がどんなにヤキモキして腹が立つのかを。

でも結局……。

勝ったのは彼の方で。←予想外
結果、やはり「好きだ」の一言はなくて。←号泣
おまけに何だかキスまでされて。←計算外
そして言ったのは私の方。←ばか

完敗です……お兄様…(白旗)

「な…何よぅ…。そんなの、もうどーだっていいじゃない。 兄さんは降参してやるって言ったわよ?」
「お前、それ放棄しただろ?ズルイとか言ってさ」
「……う」
「何てったって『勝負』だしな。俺は言ったよな?『後悔すんなよ』って」
「…兄さん、大人気ない……」
「そして、また『兄さん』って2回も言った。ペナルティ2個追加」
「…なっ!!何よそれー!!!」
「3個溜まると、言う事を聞くという施行権が1に格上げ」
「だっ…誰が決めたのよ、それっ!!」
「俺が今、決めた」

何だか…こういう人だったっけか?シゲンという人は。

「ズルイよ…そんなの」
「そうか?俺は良い考えだと思ったんだけどな」
「どうしてよ!シゲンばっかりが得しちゃうじゃないのよっ」
「お!今度はちゃんと言ったな。偉い偉い」
「…!!…もうっ!!」

シゲンはニヤリと笑うと、その大きな手で私の頭を優しく撫でた。
頭を撫でられるのは好きだけど、この状況がいささか自分にとって不本意なので
あまり嬉しいものじゃない。
本当はこんな筈じゃなかった。
私の中では今頃、シゲンに「好きだ」って言わせた後で…。
ふふんと得意顔になってる横では、苦虫噛み潰したような、照れ顔の彼が頭を掻いてる筈だったのに!!
どうしてこんな事になってるんだろう。
思わず大きい溜息が一つ。
その瞬間…シゲンは私の耳元まで唇を寄せて「どうした?」と聞いた。
唇が触れるか触れないかの所で囁かれると、吐いた息が首筋にもかかってぞくぞくする。
更にきゅっと腕に力が込められた。
ああもう苦しい。一体何時までこうしているのか。

「別に…。自分の浅はかさにちょっと呆れちゃってるだけ」
「何だ、今頃気付いたか」
「…ぐ…」
「お前は何時だってそうだ。そういうのを猪突猛進っていうんだぜ?」
「…何それ…」
「猪のように、向こう見ずに突っ走ってるって意味だ」
「……(怒)」
「だから目が離せない」

えっ?

ねぇ、今もしかして、ちょっぴり嬉しい事言ってくれたんじゃないの?

ドキドキして思わずシゲンを見上げるとそれを察してか、 意地悪そうに笑って「保護者としてな」と、ぬけぬけと言い放った。
がっくり。
ああもう嫌だ。
こんなちょっとした言葉に一喜一憂してる自分がもう嫌。
この人と押し問答やって、勝てる人がいるならぜひお目にかかりたいものだ。
埒があかない。
「もういいわ」と半ば諦めて、その拘束から逃れ様と、自分の両手を彼の胸に押しやった。
…が、腰に回された腕は、がっちり組まれていて離してくれそうな気配はない。

「……ねぇ、もういいでしょ?離してよ」
「誰がいいっつった?」
「…は?」
「俺は一言も言ってねえよ」
「…ちょっと!でも何時までもこんな風にしてる訳にはいかないでしょう?」
「ああ、そうだな」
「……ねぇ?意味判ってる?」
「ん?」
「だから離してって!!」
「嫌だ」
「『嫌だ』じゃないでしょ!?離して!!」
「嫌だ」

……何なのよ(怒)

ちょっぴりむかっ腹が立ったのでギロリと睨んでやったが、 シゲンは私の髪をくるくると指に絡めて遊んでいる。
こちらを見ようともしない。

「こんなトコ、ホームズや他の人にでも見られたらどうすんのよ?」
「別に」
「私はよくないっ!」
「何で」
「……恥ずかしいでしょう?」
「恥ずかしいのか、お前は」
「当たり前でしょう!!特にあの男に知れたら、この先何て言ってからかわれるか!!」
「言わせねえよ」
「え?」
「それは俺が言わせない」

うあああ…。
そんな事言われたら黙るしかないじゃないよぅ……。
……誰か助けて(苦笑)

「…もしかして…もう実行してる?」
「うん?」
「シゲンの『言う事を聞かせたい事』って…」
「おう」
「私と一日中こうしている事なの?」

私は言った後「しまった!!」と思った。
その時の彼の顔。
まるで砂の中から宝物をやっと見つけたという、邪気のない笑顔全開で にっこり笑いかける子供のよう。
目を見開いて破顔する。

「ああ!それもいいな。いいぜ、そうしよう」
「ええっ!!何っ!?ち、ち…っ、違ったのっ!? 嘘ッ!!だったらどうして離してくれないのよ」
「離したらお前、逃げるだろうが。…俺はまだ、何にするか考えてたんだがなあ」
また彼はニヤリと笑う。

くっ…違う…違うっ…絶対違う!!!
これは私に言わせる為の策略だ!!
いや、むしろそういう風に仕向ける事が、彼にとってのしてやったり術なのだ!!!
そうして私はまんまと引っ掛かってしまったばか女。
『後悔すんなよ』の言葉はきっとここに掛かっていたのだと。

「さーて、そうと決まったら部屋へ行くか」
「部屋っ!?」
「もう決まった。俺の言う事は『一日中俺の傍に居ろ』だ」
「今だってそう変わらないじゃないのよ!!何を今更…」
「わかんねぇのか?お前…」
「は…」
「俺が言うのはそんな上っ面の事ばっかじゃねえよ」
「はい……?」
「子供か?お前は。相手してもらうぜ。一晩中な」

は…っ!!!
きゃああああああああ!!!!!←心の叫び
助けてー助けてー!!誰か助けてー!!
私はただ「好きだ」って言ってもらいたかっただけなの!
別にそういう関係になる事を、望んでない訳ではない訳ではないけどっ!!(滅)
でもでもでもっ!!!どうしてそれが今なの!?
しかもしかもこんなっ…私にとっては何一つ望みが叶ってないままの状態で、乙女のそれ(笑)を 無条件に差し出せというの!?

例えが悪いけど、人身御供になるってこんな気分?(苦笑)

何だか…私思いっきり損してる気がする。
何かムカつく。シゲンばっかりが良い思いしてる。
そりゃ勝負に勝ったのは彼だけど…。
言う事を聞いてやるっていったのは紛れもなく私自身だけど。

でもやっぱり。

「好きって、愛してるって、言ってくれなきゃ嫌!!」
「……何ぃ?」
「言ってくれなきゃ嫌っ!!」

照れ隠しもあったと思う。
どうしてもやっぱり「証拠」が欲しくて、ついそんな事を言ってしまった。
シゲンはきょとんとした顔でこちらを見ている。
そうしてすぅっと目が細められ、深深と溜息が吐かれると
「お前はまだわからないのか」
と言った。
そうして続け様に一言。

「俺は好きでもねぇ奴と一緒に居るほど、暇人じゃねえんだよ!!
大体、『好きだ、愛してる』なんて言葉は嘘でも言えるんだ、男は」

ちょっと怒った風な顔。

これは衝撃的な言葉だった。
頭の中にズガンと響く。
ああ…そっか…。
そうだよね…どうしてそんな事に気付かなかったんだろう…私。
自分の気持ちばかりを押し付けて、彼のする事の意味なんて気付こうとしなかった。

頭を優しく撫でる手。

無理矢理だったけど乱暴じゃなかったキス。

胸に閉じ込めて離さなかった腕。

「分かれよ、それっくらい」と言ったあなたの言葉。

抱きしめられてる今でも力がこもる瞬間。

この全てが、あなたの愛。

ごめんなさい。…私、やっぱり浅はかなばか女だ……。
しゅん…となった私を、慰めるように彼は言った。

「……ああ、でも、俺も悪かった。一回も言ってやった事がなかったもんな」

愛してるって。

「お前がそんなに俺の口から聞きたいのなら…言ってやる」

愛してるって。

「一緒に寝る時、毎晩言ってやる」

愛してるって。

「だから、ジュリア…俺のものになれよ」

それを聞いた瞬間、はっとした。
シゲンの顔を見ようとしたけど、彼の腕がさらにきつく腰に回って力がこもる。
私の頭は固定されてて動く事すらかなわない。
それでも何とか身をよじろうと顔を動かすと「見んな」と一言彼は言った。

たぶん言った本人でさえも、信じられないくらいなんだろう。
おおよそシゲンらしくない言葉だったもの。
きっとそれは「愛してる」よりも、ある意味恥ずかしいものかもしれない。
そう思ったら、嬉しくて嬉しくて急に笑いがこみ上げてきた。
くすくすと肩を震わせて笑う私をよそに、「…ちっ」とその人の舌打ちが聞こえてくる。
今ね、泣きたくなるくらい幸せなの。それが判るかなぁ?シゲンには。

「おい、ジュリア、何時まで笑ってんだよ」
「きゃ!」
憤慨してる彼に、急に身体ごと荷物のように抱え上げられた。
横抱きにされて目を回す。
「何するのよ!!」と彼の顔を盗み見たが、それはまったく何時もの平常心保った顔に戻ってて。
何だかふーっとまた溜息がもれそうになったけど…でも。
耳がちょっぴり赤い事がわかったから…うん。許そう。

「覚悟しろよ」
「…お手柔らかに…」

そんな妖しげな会話を交わしながら、シゲンはそのままジュリアを抱きかかえて、 自分の部屋へと消えていった。

次の日……。
ジュリアは部屋から起きて出てこれなかったのは言うまでもない(笑)
シゲンはしれっと何時もの調子で、頼りない船長の代わりに海図を見ていたが。






*あとがき*
なんかもー…バカップルも良いトコ…ふー。
勝手にしなさい…と言いたいくらいどうでもいい話しデス。(失笑)
シゲンの性格がちょっと違ってる感がありますが、元ネタがあの漫画の続きなので こんな感じに仕上がりました。
ジュリア一人称のつもり。<これが一番ラク。
私の書くSSは全部ヘボで(苦笑)見てくださる方には申し訳ない限りですけど でも二人への愛はわかって下さい!!(笑)
何時かはシゲンサイドの話しも書けたらいいな〜とか思うけど、 さらに性格が激しく違ってきそうで恐いですわ(笑)
…壊れても良いですか?

しかし…相手がホームズでも違和感ないよね…(苦笑)<セリフの言い回しに悩みます

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