ONEDAY


イル島の南に位置する、海の見える場所が二人の家。
今日も朝からとても良い天気で、ジュリアはすこぶる気分が良かった。
二階のテラスから見下ろす蒼い海は穏やかで、潮風の香りが鼻腔をくすぐっていく。

「さーて!今日も一日頑張りますか!!」
そう言って右腕を腕まくりしたジュリアは、ベッドのシーツを勢い良く引き剥がした。
今日は天気が良いから洗濯して、お布団干して、部屋中を掃除して……そしてたくさんご馳走を作るの!
シゲンがやっと海から帰って来るんだもの。

シゲンはホームズ達と海に出ている。
何でも『トレジャーハンティングは男のロマンだ!シゲンも来い!』と半ば 無理矢理誘われたのが原因だ。
それを聞いた時、最初はジュリアも何が何でもついて行くつもりだったが、 それがどうしても自分自身に都合が悪くなった為、こうして家で大人しく待っているという訳だ。
ホームズとシゲンは、黙っていても当然ジュリアはついて来るものだろうと決めつけていたので、 終始不思議そうな顔をしていたが。

まだ……内緒なの。
そう独り言ちてふふふと笑う。

一日の半分が過ぎ様としている頃、ようやく準備も整った。
「あとはテーブルに花でも飾ればオッケー……かな?」
そういって、目前の御馳走と言われるものを見ながら、腰に手を当ててちょっと得意顔になってみる。
二人で暮らし始めた頃は、料理なんてまともに作れなかった。

シゲンに半分……いや、それ以上に手伝ってもらっちゃって。
しかもシゲンの方が器用に何でもこなしちゃうから、またそれが憎らしくて。悔しかったなぁ……。
でも……あれから四ヶ月……。
きっと今日は……誉めてもらえる……と思う。頑張ったもの!!私。
ちょっと見目は悪いけど、食べられない事はないと思うし。

少しだけ過る一抹の不安があったが、そう無理矢理自分を励ましてみた。
シゲンはジュリアの料理に(…というか、ジュリアのする事に)文句など、 一言も言ったためしはないのだが。

ふと窓の外に目をやった。
一人の人物がこちらに向かってやってくる。
一瞬、シゲンが帰って来たのかと思ったが、それは意外な人物だった。
慌てて扉を開けて、その姿を再確認する。

「……ヴェガなの!?」
「……なんだ、その意外そうな顔は」

一年前……解放戦争で共に戦った仲間が、今、目の前に居る。

ヴェガは二人に共通している友人だった。
かつては命を狙われた事もあったが、今では誤解も解け、自分を嵌めた奴の敵を取ってくれた。
この事は、実はシゲンに話していない。
シゲンを追いかけてイルを飛び出し、そしてラゼリアで危険な目にあったと話せば、 きっと……怒られるに違いないと思ったから。
ヴェガと出会った事で、自分の傭兵としての生き方や、剣の道を考える切っ掛けも出来た。
『お前は剣士には向いていない』
この一言はジュリアを侮辱し、憤慨させるものだったが、今冷静に考えると、確かに あの頃の自分はとても甘かったと思う。
リーベリアが平和になってからは、皆それぞれ自分の故郷へ帰って行った。
誰が何処へ旅だったのか、個人の消息は一部を除き、知る由もなかった。

「どうしてここに?……あ、立ち話もなんだから、中へどうぞ」
「……シゲンはどうした?」
「……あ、今日海から帰って来るの。もう少ししたらきっと……」
「……そうか。来るのが遅すぎたか」
「?」

言ってる事がよく判らないが、シゲンに何か話があったのかしら……?といぶかしむ。
聞きたい事は色々あっても、ヴェガは余計な事は一切語らない人なので、 少々意思の疎通に問題がある事は確かだ。
お喋りな女だと思われるのも癪だし……。
お茶の用意をしながら、さて何をどう切り出そうかと考えこんでいたら、 ふと、ヴェガは「お前は剣士を辞めたのか」と聞いた。
そんな事を聞いてきたのは、きっと今のジュリアの格好の所為。

「……え?そんなつもりはないけれど……確かにシゲンとイル村に戻って来てからは あまりまともに剣を握っていないわ。
一年前と違って、傭兵として雇われる機会もそうないし……」
「……そうだな……。俺もそれには苦労する。
傭兵は戦争があってこそ活かされる職業だからな」
「ふふふ。きっと、これからも苦労するわよ?世の中こんなに平和なんだもの……。
それに……」
ジュリアの頬がぽっと薔薇色に染まる。
「何だ?」
「私は……もう二度と剣は握らない。きっと再び握る時は、この子を守る時だわ」
そう言って、そっと愛しさを込めて腹をなでた。
その目はすでに母親の眼差し。

「……そうか……お前の剣は人を生かす剣だったな……。
迷いのない、真っ直ぐな……自分の信じるものすべてを愛しむ。
俺はそんなお前の心に……」
ふいにジュリアの顔が上がって、ヴェガの瞳と交わった。
「いや、邪魔をしたな。今の生き方がお前には合っている。
今日はお前と会えて良かった」
途端にそう言って、ヴェガは腰を上げた。
「……え?……何、もう行ってしまうの?もう少し待ってなさいよ。
もうすぐ帰って来るんだから。シゲンに話しがあったのでしょ?」
「話しがあったのはお前にだ……。しかし、もうその必要はない。
お前がシゲンに話す事があるんだろう?」

それはとても核心に触れた言葉だったので、瞬間ギクリとしたが、でも……と ヴェガを引き留める言葉を探そうとした。
刹那、 バターンとけたたましくドアが開いたかと思ったら、騒がしい声が一気に流れ込む。

「よお!ジュリア、今帰ったぜ!!いい子に留守番してたか?」
「……おい、ホームズ……ここはお前の家じゃねえだろうがよ」
「うっせ!お前の家は俺の家も同じなんだよ!
……しかし何だ、ジュリアの奴。出迎えも無しとはいい根性してやがる」
「お前の顔を見るのが嫌だとよ」
「へん!もしかすっと、てめえが愛想つかされたんじゃねーのか?」
「……ふっ。それはないな」

聞いてる者が笑い出しそうな掛け合いが聞こえる。
帰ってきた!懐かしい声。

「お帰りなさい!!シゲン」
そう言って、勢いよく走り出す。

「よお、ジュリア。元気だったか?」
「うん!」
シゲンの首に飛びついて、今まで離れてた分を埋めるように抱きしめる。
日に焼けて浅黒くなった肌からは、ふわりと潮の香いがした。
「俺は無視かよ?」
「あら?お帰りなさい、ホームズ。元気そうで何よりだわ」
「……とってつけたように言うなよな!」
拗ねたように口を尖らせて怒り出すホームズがちょっと可愛くて。
くすくすと思わず笑みがこぼれる。
お前、やっぱり変わったよなぁ……と、やりにくそうに苦笑いしたホームズの目の先に 意外な人物が立つ。
「!?」
シゲンもその様子に気付いて目をやった。
「ヴェガ!?……どうしてお前がここに……」
流石に驚きを隠せない。
「これはこれは珍しい客が居たもんだ。
何だ、ジュリア。寂しいからって他の男を連れ込んだら流石にマズいだろうよ。
シゲンに申し訳無いとか思わないのか?」
いけしゃあしゃあとそんな事をホームズが言い出す。
「ちっ……違うわよ!!
たまたま今日、ヴェガは訪ねて来てくれただけよ!!」
ジュリアはあっとシゲンから離れて、事の経緯を話そうとしたが、 そう言えば何故イル島に来たのかを聞いてなかった。
「ジュリア、俺はもう行く」
「えっ!?折角シゲンもホームズも帰って来たのに……。
これから夕食だからヴェガも食べて行きなさいよ!
そんなに美味しいものではないけれど……」
しかし、ヴェガはジュリアの声に構わず歩き出した。
シゲンはその様子を黙って見ていた……が、ふいにすれ違う瞬間、 それはシゲンにだけ聞こえるよう囁かれた。
「……手に入れたからといって、安心するな」
「……!?」
「俺はその場所を諦めない」
ヴェガは顎でジュリアを指す。

シゲンの顔色が変わった。
思わずジュリアの顔を見る。
「……何?どうしたの?」
「いや……」
再びヴェガの去った方向に振り返ったが、すでにその姿は無かった。
ちっと舌打ちをする。
「ジュリア……次の航海にはお前も一緒に来い」
「……え?でも……」
「いいから、黙って俺について来い!」
何が何だかよく判らないジュリアは、取り敢えず「うん」とだけ返事をした。
何を怒っているんだろう……?あんな風なシゲン、初めて見たかもしれない。
折角良いニュースがあるのにな……。そんなに怒ってるんじゃちょっと言いそびれてしまう。
一指し指を顎に当てて、ちょっと困った顔をする。

「おーい!腹減った!!飯、飯ー!!
ジュリア、俺はもう勝手に食うぞ!こんな不味そうな料理、俺とシゲンくらいしか
食う奴はいねえんだからよ!!」

奥のダイニングからは、そんな声が聞こえてきた。
ジュリアはやれやれとため息をつきながら、まぁいいか。と思い直した。
どうせアイツが居る間は、まともな話しは出来はしないのだから。
「そんな失礼な事言うんだったら、食べさせないわよ!!」
大声でそう応戦して、シゲンに振りかえった。
「シゲンも食べてよ。私、今日一日頑張ったのよ?」
「……ああ」
その答えが嬉しくてジュリアはにっこり笑う。

シゲンはジュリアを引き寄せ抱きしめた。
やはり残すんじゃなかった。
首に縄を引っ掛けてでも、自分の傍に置いておくべきだったと後悔する。
こんな愛しい掛け替えの無いものを四ヶ月も。
今夜はもう離さないつもりだ。
思わずふっ……と苦笑混じりの笑みが漏れる。
……こんなガキみたいな感情が俺にもあるとはな。
「シゲン……?」
ジュリアは不思議そうな顔をしてシゲンを見上げる。
俺の帰る場所は、誰にも渡さない。

ジュリアはシゲンの背中をぽんぽんと叩く。
「あのね、後で二人っきりになったら、聞いて欲しい事があるの」
「……何だ?今、ここでは言えない事なのか」
「うん。後で。
さ、早く行かないと、折角シゲンの為に作った料理、 ホームズが食い散らかしちゃうから」
「ああ……そうだな」


シゲンはジュリアの肩を抱いたまま、 ホームズの居るダイニングへ歩き出した。






*あとがき*
いい加減、タイトルひねろうよ(苦笑)
…ヴェガジュリは美味しいです。色んな意味でね(笑)
ただし!私の場合はあくまでもシゲジュリ前提なんですがvv
ヴェガにどーしてもあのセリフを言って貰いたかった為に作った話なのです(苦笑)
ちょっぴりうろたえる兄を書きたかったので〜vvv あと自分も予想つかなかった事で妬いたりねv<バカめ…
しかし、ジュリアはヴェガの支援効果はつくのに、どうして逆は無いんでしょうか?(謎)
一週目のクリアではクリシーヌさんと旅立って行かれましたが…。 ヴェガジュリは可能なんでしょうか?誰か教えて下さい…。
しかしやっぱり無駄に長い私の文章…。自分で書いててウンザリです(苦笑)
もっと完結にスパッとセンスある文が書けないものか…。

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