死神にご用心

 

「ジュリア、あの黒いのは何者だ?」

リュナンたちと別れ、ウエルトへ向かう準備のさなか、ホームズがジュリアに尋ねた。

「黒いのって?」

荷物をチェックしていた手を止めて、ジュリアが聞き返す。

「アレだよ」

ホームズは、大きな荷物を軽々と抱えて、船に積み込んでいるヴェガに視線を移した。

「ああ・・・ヴェガね」

「話題騒然だぞ。あいつがお前についていくって公言したから・・・」

ジュリアはきょとんとして首をかしげる。

なんのことかわからないという風情の可愛い表情が凶悪だ。ホームズは心の中でいつもそう思う。

 

ことの始まりは、リュナンたちがイスラを離れる日のこと。

ホームズとリュナン、それにオイゲンとシゲンは、兵の編成に頭を悩ませていた。

「・・・とにかく、本人たちの意見を聞いてみないとなんとも言えないな」

さんざん考えた挙句、リュナンのその一言で仲間たちを集めた。

「リュナン公子、すまねえな。俺は、若と行く。」

「ああ、ガロ。これまでありがとう。また一緒に旅をできることを楽しみにしてるよ」

「私たちは、リュナンさまと行きます」

「当たり前だろ。お前らがリュナンと離れてどーすんだよ」

ホームズたちの問いかけに応え、それぞれが自分の行く道を主張した。

やはり、これがいちばん簡単な方法だったな、とホームズとリュナンが顔を見合わせる。

「・・・よし、次はっと。お前どーする?」

ホームズは黒髪の大男に尋ねた。名前がどうしても浮かばない。

「・・・・・」

「ヴェガ、あなたに聞いてるのよ?」

黙ったままのヴェガに、横にいるジュリアがささやいた。

「女、お前はどうする?」

「・・・女って呼ぶのやめて。ジュリアよ」

「・・・・・」

「私は、ホームズたちと行くわ。」

あっさりと、ジュリアが応える。偶然にも兄に会えたのだ。離れるつもりは毛頭なかった。

「そうか。では、私もお前と共に行こう。離れるわけにはいかないからな」

その一言で、奇妙な沈黙が広がる。

シゲンの眉が、ぴくりとつりあがるのをホームズは横目で見ていた。

 

「ああ・・・アレね。話さなかったかしら?ヴェガってば騙されて私の命を狙ってたのよ」

「は?」

「シュラムの死神。知ってるでしょう?」

ジュリアが言ってる内容とそぐわない笑顔を浮かべる。

「しゅ、シュラムの死神〜っ?!」

ホームズの声がわずかにうわずる。死神のネームバリューは大陸の隅々まで通用するらしい。

「そ。だけど、まだ私のこと全部信じたわけじゃないのね、多分。だから一緒に来る気になったんだと思うわ」

「お前・・・よくもまあ、生きてたな」

「まあね。あやうく殺されるところだったけど・・・・、誤解だってわかったから助かったの。癒しの果実くれたりして、ちょっとだけ優しかったんだから。」

「ほお・・・」

まんざらでもなさそうなジュリアを見て、ホームズの顔がにやりと緩む。

「そういえばお前、あのときのシゲンの顔、見たか?」

「え?いつの?」

思い出したのか、ホームズは可笑しそうにくつくつと声を出して笑った。と。

「だれの顔がどうだって?」

そう聞こえるが早いか、ホームズの背中に微塵ほども容赦のない蹴りが入る。

「ぐっ・・・」

「兄さん」

振り向いたジュリアが相好を崩した。

息ができないのかのたうちまわっているホームズは、すでに彼女の眼中にない。

「ジュリア、今の話、本当なのか?」

シゲンが、こちらも悶絶するホームズを綺麗に無視して心配そうにジュリアの顔をを覗きこんだ。

「大丈夫よ。もう傷痕だってないんだから」

「気をつけろよ。・・・戦闘の時は、なるべく俺のそばにいろ」

「わかってる」

「でたな、ラブラブ兄妹め・・・・」

ようやく立ちあがったホームズが、口の中だけでつぶやく。いつものことだが、この兄妹の仲の良さに

はついていけない。

「なんか言ったか?」

じろりとシゲンに睨まれて、ホームズは作り笑いを浮かべた。

「いや、別に〜、。何も」

「そういえば、ホームズ、ヴェガがどうかしたの?」

やっと当初の話を思い出して、ジュリアが尋ねた。

「あ、そうだった。まったく、話が逸れちまったぜ」

だれが脱線させたのかは棚に上げて、ホームズは真面目な顔を作る。

「あいつ、愛想のかけらもないだろ。女どもが怖がるんだよ。もうちょっとフランクになれないもんかな」

「・・・無理でしょう」「ああ、無理だな」

兄妹が口をそろえる。フランクなヴェガを想像したのか、ジュリアは今にも笑い出しそうだ。

「そう言わずに、ちょっと女どもに優しくしろって言ってくれよ、ジュリア」

「私が〜?」

「お前がいちばん仲良さそうだろ?な、頼んだぜ」

そう言い残してホームズはシゲンと目を合わせないよう、逃げるようにその場を後にした。

「もうっ・・・」

拗ねたように頬を膨らましたジュリアと、仏頂面のシゲンが後に残された。

 

「それでねっ。ヴェガさんったら、私を助け起こして薬草を下さったのよ〜vしかも『礼には及ばない』って。」

目がハートになっちゃってるカトリが楽しそうに語る。

「あら、私も弓に狙われて危ないところを助けてもらったのよ。ものすごく強かったんだから」

マーテルもうっとりと乙女が入ってしまっている。

「あたしも、ぎんの剣盗もうとしてやられそうな時、助けてもらったの!」

ユニが頬を染めて言う。

「素敵よね〜」

 

「なんだよ、アレは・・・?」

少し離れた位置から、盛り上がる女性陣を横目に、ホームズが呆れ顔を作る。

「ジュリア、一体お前、あの黒いのに何を吹きこんだんだ?」

「ホームズに頼まれた通り。『女の子には優しくしなさい。あの子達を守るのもあなたの仕事。

これはリーダーの意思よ』ってね」

「意外と、素直なんだな」

シゲンがうんうんと頷く。

「結構なことだ」

「結構なもんか」

口の中だけで呟いたつもりの声は、ジュリアにもシゲンにも聞こえてしまったらしい。

「なによ、なんか不都合なことでもあるの?」

ちょっぴりむっとしてホームズに詰め寄ろうとするジュリアの肩に、にやにやと笑いを浮かべたシゲン

がぽんと右手を置いた。

「察してやれ、ジュリア。あの娘がヴェガに夢中で、面白くないんだろうよ」

「だっ・・・・誰がカトリなんか」

気色ばんで反論しようとするホームズに、シゲンがお約束の突っ込みを入れる。

「俺はカトリだなんて一言も言ってないが?」

うっと言葉に詰まるホームズに、ジュリアまでも面白そうに視線を送る。

「なるほどね〜」

心底楽しそうなジュリアの声。

ホームズは片手で顔を覆った。この兄妹タッグには、昔から敵わない。

 

そのころ、ヴェガはつかの間の静寂を手に入れていた。

目を瞑って、瞑想にふける。幸せなひとときだ。

・・・日々是修行なり。

 

仲間たちが、自分を巡って騒がしいことなど、知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

天然ボケ(笑)ヴェガの話をお送りします。
いえ、ヴェガってものすごいシリアスな話も思いつくんですが・・・コミカルもOK?てゆーか、ホームズがね・・。
第1回目の編成直後の話です。うちのSSだと「ニセモノの恋」の直前。
このあとあんなシリアスやるのかシゲン兄(笑)。

私がホームズ軍にいたらヴェガって遠巻きにみてきゃあきゃあ騒ぐ対象なんですよ多分。恋人には御免だけど(酷)。
友達にしたら楽しそうなのはホームズ。弟はゼノ。兄はやっぱりシゲンですか(笑)。
恋人は〜〜思いつかないなあ・・・でも、強いて言うならホームズ再登場。浮気しなさそう(大笑)

 

 

 

 

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